竜田揚助の数理科学解説所

数学、物理、について書いてます。

熱力学がわからない男による大学熱力学の講義part1(熱力学第0法則/第1法則/第2法則/カルノーサイクル/絶対温度/etc)

力学の講義を連載すると意気込んでから実際に記事を書くまで結構な時間を要してしまいましたが、これは決して忙しかったわけでも、熱力学が難解すぎたからでもありません。ただ惰性で行動に移せなかったのです。やはりあまり好きで無い分野の勉強というのは始めるのが億劫であります。しかし面倒だと言ってそのまま放置していては私の単位がなくなってしまいますから仕方なく手をつけようということになりました。おおよそ現在(2021年6月25日)から試験まで1ヶ月でありますので自ずとこの連載も1ヶ月でかたを付けてしまおうと思います。1ヶ月というのはそれなりに短いですが、スピード感あふれる直感的な内容で試験前で単位の危ない学生さんのお役に立てるものを丁寧に展開していこうと思いますのでどうぞお付き合いください。また少々気が早いですがここで今後私が勉強し参考にしていく参考書をあげておきます。

 

参考文献

『大学演習熱学・統計力学

『基幹講座 物理学 熱力学』

『キャレン 熱力学および統計力学入門』

 

【目次】

 

 

熱力学の根本をなす法則

どうやら熱力学にはかなり多くの経験則が基本原理として組み込まれているようです。その最も基本的なものとして熱力学第0法則、熱力学第1法則、熱力学第2法則があります。今回はこれらを順に解説し、その都度必要な言葉の定義や原理を補足していきます。それでは早速熱力学への第一歩を踏み入れましょう。

 

熱力学第0法則

「物体Aと物体Bが熱平衡状態で、物体Bと物体Aが熱平衡状態なら、物体Aと物体Cも熱平衡状態である」

 というのが熱力学第0法則の主張です。まずはこの文中の「熱平衡状態」の意味を確認します。

熱平衡状態とは

人間の肉眼で見たときに系がもう変化しない状態」といった意味です。実際にどんな系でも熱平衡状態に落ち着くのかというとすぐには答えられませんが、熱力学においては、「どんな系もやがて熱平衡になる」ということを経験則から正しいとしています。そしてその経験則によるといくつかの少数の変数でそれぞれの熱平衡状態は定まるというのです。その変数を状態量といいます。もっと詳しく言うと、

状態量とは

熱平衡状態を一意に定める量のこと」となります。

 

これで言葉の意味が分かりましたから次に熱力学第0法則の内容を直感的に見ていくとちょうど次の絵になります。絵にしてみると至極当たり前なことを言っていることがわかるかと思います。

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この法則は物質の体積を基準として温度を測ってくれる温度計(ガラス製で先端に赤い液体がたまっているやつです)が二物体が同じ熱平衡状態にあるか否かを判定してくれることの根拠になっていますね。

 

熱力学第1法則

「エネルギー保存則が成立する」というのが主張です。ちょっと簡素すぎるので実際に式で表現すると下です。これは高校物理の知識でしたね。

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熱力学第一法則は外界からの影響(仕事、気体の流出、熱源との接触etc)をふまえたものです。そこでここで外界からの影響を3つに分類していきますと

  • 機械的作用:ピストンによる仕事のような力学的な影響
  • 熱的作用 :熱源との接触のような熱の影響
  • 質量的作用:気体粒子の増減など

 となります。

 また熱力学第一法則の言い換えとして次が言えます

「第一種永久機関は存在しない」

第一種永久機関とは外界のエネルギーを減らさずに仕事を生み出す夢のような機関です。これが存在したと仮定するとエネルギーの保存則である熱力学第一法則が崩れますから背理法的に示せますね。

ここでさらっと背理法を使いましたが、熱力学の基本的な証明問題は意外と背理法が有効です。これで熱力学第一法則については以上です。この調子で熱力学第二法則を考えたいところですがまずは高校物理の範囲を総ざらいしたいので状態方程式を見ていきます。

状態方程式について

 理想気体の状態方程式

高校物理の教科書によると理想気体は次の法則にしたがうのでした。

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これは実験によって得られた結果であり、成立する理由は統計力学の範囲でしょうからここではいったん認めてしまします。次に実在気体の場合を見ていきます。

 

実在気体の状態方程式

a,bを考えている気体に固有の値として、

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が成り立ちます。ちょうど赤字のような解釈をすることができます。こちらはPV=nRTの拡張ver.のようなものですんなりと受け入れられるでしょうからこれ以上は触れず先を急ぎます。詳しい考察は以下の記事で行っています(準備中です)。

熱力学第二法則

この法則のニュアンスは「熱をそっくりそのまま仕事に変えることはできません」というものです。もう少し厳密に言うと、

トムソンの原理

「熱源から熱を貰って仕事をしたとき、仕事以外の変化を残さないことはありえない」

となります。そしてこれは次の3つと同値であります。

第2種永久機関は存在しえないこと

第二種永久機関は熱源から貰った熱をすべて仕事に変える機関のことです。ですからこれがトムソンの原理と同値(というかトムソンの原理そのもの)であることはすぐにわかります。

クラウジウスの原理

「熱が低熱源から高熱源にほかに何らかしらの変化を残さずに移ることはない」

という主張です。これを簡単に言うと、ほおっておいたコーヒーがいつの間にか淹れたてのように熱々になることが無いということです。

カラテオドリの原理

「どんな熱平衡状態でもそこから断熱変化によって移れない状態が任意の近傍に存在する」

なんだかいきなり難しそうな文言です。本当にこれがトムソンの原理と同値なのでしょうか。

 

以上4つの表現を見ていきましたが、同値性の証明は

  • トムソンの原理⇔クラウジウスの原理
  • トムソンの原理⇔カラテオドリの原理

を示せばよさそうです。意外と長くなりそうですので以下の記事にて証明を行いますのでぜひご覧ください。

熱力学がわからない男による大学熱力学講義(補講その1) (熱力学第二法則の同値性を示す) - Do-Douの大学聖日記

カルノーサイクル 

つぎにカルノーさんが考えたカルノーサイクルを見ていきます。

まずカルノーサイクルとは下図のように二つの熱源と熱のやり取りをして、仕事を行うサイクル熱機関のことです。

まずpv図で書くと下になります。

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あるいはサイクルと外界との関係を模式的に表すと、

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となります。

これを理想気体で考えると、

 f:id:Hannak:20210628183332p:plain

ですので、

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となります。同様にして

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もわかります。これらの和をとると、

 ということがわかります。

では一般の気体ではどのようなことが言えるでしょうか。まず効率は、

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となりますがこの効率ηについて次の原理が言えます。

カルノーの原理

「ηはカルノーサイクルが可逆であるときに最大であり、この時のηは二つの熱源の温度にのみ依存する」

証明は背理法です。つまり可逆でないカルノーサイクルで効率が最大であったと仮定して矛盾を導くのです。

まずは可逆なサイクルCを下のように取ります。

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これの逆サイクルと、効率が最大の可逆でないサイクルを下のようにくみあわせて、

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というサイクルを考えます、サイクルC,Dをまとめて描くと次になり、

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これはもらった熱量をすべて仕事に変えてしまってますからトムソンの原理に矛盾です。こうして前半部分の確認が完了しました。次は後半部分(つまり可逆カルノーサイクルの効率が熱源の温度のみによること)を確認します。

まずは前半部分で確認したことより、

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です。もしもサイクルⅮも可逆であれば同様の理由から、

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です。ゆえに2式から

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となり、熱源の温度さえ定まれば可逆カルノーサイクルの効率は一意に定まることがわかり、後半部分の確認も完了です。

 

熱力学的絶対温度の定義と検証 

そうすると温度というなんとも言葉で表現するのは難しいぼんやりした概念を次の式できちっと定義することができます。

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こうして定められた温度を(熱力学的)絶対温度というわけですが、どうしてこのような定義が可能なのでしょうか。

まず「熱源の温度さえ定まれば可逆カルノーサイクルの効率は一意に定まる」という前節の結果から、

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がいえます。そしてここで新たに3つのカルノーサイクルからなる下のような状況を考えます。

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このとき、

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となるので、

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が成り立ちます。そこで、

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と定めて上式を考えていくと、
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という関係が成り立ちますが、右辺でT3を動かしても変化しないことから、

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の形であるとわかり、

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を得ることができます。そこで理想気体の時の結果に合うように、温度を

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と定義してもよくて、そうすると一般の気体で

f:id:Hannak:20210628183435p:plainが言えます。こうして得られる定義により熱力学的絶対温度が定まります。

 

クラウジウスの不等式

上では3つの可逆なカルノーサイクルを組み合わせたサイクルでしたが、これを一般のカルノーサイクルの一般の個数に拡張して考えると、

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となります(等号はカルノーサイクルが可逆の時)。さらに各々のカルノーサイクルを無限に小さい変位をもたらすものとして考えるとΣは積分に移り、

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となります。この関係式をクラウジウスの不等式と呼びます。(どこで活用するのかは謎です。勉強を進めていくうちに活用例に出会うかもしれませんが。)

 

上でpart1の講義は終了いたします。次回はエントロピーについて考えていきます。

もしよろしければ今後もご覧ください。

 

【続き】

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