流れがわかる流体力学part7(円柱に働くマグヌス力)
今回は前に導入した複素速度ポテンシャルを用いて、回転する円柱に現れるマグヌス力を求めてみます。マグヌス力とは一般に回転する円柱や球に働く揚力のことで、物体が回転するのにつられて周りの流体が回転し、渦をなすことが原因です。このことからわかる通り、流体に粘性があることが必要です。ですが今回は簡単のため次の近似を行います。
「物体と流体の間の摩擦は考慮するが、流体間の摩擦は考慮しない。」
こうすることでベルヌーイの定理を用いることができ、議論か難しくならずに済むのです。この仮定の下でマグヌス力を導出していきましょう。
【目次】
今回取り扱う系の確認
今回は、
非圧縮性/完全流体/二次元
で考えていきます。ただし上でも述べた通り、今回は簡単のため完全流体でありながらも物体と流体の間の摩擦はあって流体は物体につられて回転しようとするものとします。
具体的にはような状況を考えます。
つまり、一様に流れる流体中に回転する円柱が入っていて、円柱自身は並進運動しない状況を考えていくのです。
マグヌス力を求める
一様流れ中の球の速度ポテンシャルを求めた時と同様の方法を用いて複素速度ポテンシャルを求めていきます。基本は同じことの繰り返しですのでここではすこし簡便に求めていきます。
まず
という複素速度ポテンシャルに注目すると、
が流速ベクトルの各成分になります。そこから、動径方向に垂直な成分の速度は、
であるとわかりますから、これが静止流体中にx軸方向に−Uで動く円柱がある時の複素速度ポテンシャルとなるためには、その円柱の中心が原点に一致しているとして、
となれば良いので、結局静止流体中にx軸方向に−Uで動く円柱がある時の複素速度ポテンシャルは、
であれば良いです。さらに円柱の回転につられて動く流体の複素速度ポテンシャルを表すには、
という渦を表す複素速度ポテンシャルを用いれば良いでしょう。
さらに、流体の一様流れなども考慮して考えると、結局この系の複素速度ポテンシャルは、
で与えられます。ここで
であることに注意して式を変形していくと、
となりますから、速度ポテンシャルは、
となり、これを偏微分して流速ベクトルの各成分を求めると、x成分は、
となります。ここで、
であることを用いました。この調子でy成分のほうも計算すると
となります。ここで、
を用いました。以上から、r=aとなる位置(つまり円柱の表面)での流速は、
です。ここで今回考えている系ではベルヌーイの定理が成り立ちますので、これを用いると、
となり、円柱表面での流体の圧力がもとまりました。状況を図に整理すると、
となります。今注目したいのは、圧力由来の上向きの力なので、積分によって、
となることが分かります。この上向きの力がマグヌス力と呼ばれるもので、密度、渦の強度、流体が流れてくる速度が大きいほど強いマグヌス力が生じることが読み取れます。
以上でマグヌス力についての解説は終わりです。次回は渦糸について見ていきます。
【次】
準備中
【前】