【簡単な量子力学】part1(量子力学の基本原理/ケットとブラの基本)
この記事では何回かに分けて量子力学を解説していきます。いくつかの原理をはじめに提示し、そこから自然な流れで議論を展開していきます。なるべく前提知識を必要としないようにしますのでどうぞ気楽にご覧ください。
【目次】
量子力学の基本原理
まずは量子力学の基本原理を述べていきます。ここで述べる原理の根拠は何なのかと懐疑的になるのは至極当然なことでありますが、この原理に基づいた議論がきちんと現象を説明してくれているというのが一番の根拠であるということで現時点ではとりあえず認めてしまいましょう。
- 物理状態はケットと呼ばれるベクトルで表すことができて、逆にケットは物理状態についての完全な情報を持っている。(ケットは「❘α>」のような記号で表します。)
- cをスカラーとして、❘α>とc❘α>は同じ物理状態を表す。
- 任意のケット❘α>には双対対応するベクトルが存在し、それをブラと呼んで<α❘と記す。そして、c₁❘α₁>+c₂❘α₂>の双対対応はc₁*<α❘+c₂*<α❘とする。(「*」は複素共役)
- ブラとケットは次のような結合律が成り立つ。:(❘α><β❘)(❘γ>)=❘α><β❘γ>
- 位置や運動量などの観測可能な量をそのまま観測可能量と呼ぶこととして、観測可能量はケットに作用する演算子となり、演算子が作用したケットもまたケットとになる。
- Xを演算子として、X❘α>の双対対応はX†❘α>と表される。
- 任意のケット❘α>に対して、X❘α>=Y❘α>であれば、二つの演算子XとYは等しい。:X=Y
- 任意のケットは、‘ある観測可能量の固有ケット‘の線形結合で表せる。
- ある観測可能量に対して、実際に観測されるのはその観測可能量の固有値である。
以上がとりあえずの基本原理です。これにプラスでいくつか付け加えることになりますが、基本的にこれを前提として議論を進めていきます。
基本概念
<α❘β>は内積になると要請します。つまり次が成立するのです。
基本原理8より、ある観測可能量の固有ケットの集合はケット空間の基底となることが分かります。線形代数の知識から異なる固有値に属する固有ベクトル同士は直交することが分かりますので、固有ケット同士は直交します。
さらに基本原理2より、固有ケットになんかしらのスカラーを掛けることができますので、<α❘α>=1と規格化しておいてよいでしょう。
以上の理由により、今後考える基底ケット(規定として用いる固有ケットのこと)は完全正規直交系であるとしても良いことになります。
基底ケットによるケットの表現
基本原理8より、ケットは基底ケットを❘a'>として、
と表すことができます。(本稿ではJJ Sakurai「現代の量子力学」に倣って、固有値a'に属する固有ケットを❘a'>で表すことにします。)
この式の係数Ca’を求めるためには、<a''❘を掛ければよく、
のように求めることができます。(基底ケットが正規直交系であることを用いました。)
このことから、二つ上の式はのケットは、
という関係式を満たします。この式に基本原理7を適用すると、
という重大な関係式が得られます。これを完備関係式と呼びます。(1は数ではなく恒等演算子です。)
次ではこの関係式の利用例の一つをお見せします。
演算子の行列表現とケットのベクトル表現
完備関係式は左辺が恒等演算子になっていますので、ブラやケットの式の間に自由に挿入することができます。例えば、
といった感じです。ここで表記を簡明にするため、必要に応じて基底ケットを
のような上添え字付きの文字で表すこととします。そうすると二つ上の式は、
のような行列の演算と同値であることが分かりますので、演算子Xは、
のように行列式で表記すると便利であることが察せられます。この表記を演算子の行列表示といいます。
これと同様のことを、ケットについてもやってまります。
完備関係式を用いると、
となり、これをベクトルと行列を使って表すと、
になりますので、結局、
と表すとよいことが分かります。
これで完備関係式の使い方がなんとなくわかったのではないかと思います。
今回はあまり量子論らしいことをやれていませんが次回ないしは次々回以降では本格的に量子論っぽいことを扱っていきますのでどうぞ引き続きご覧ください。