竜田揚助の数理科学解説所

数学、物理、について書いてます。

【簡単な量子力学】part2: 交換関係と同時固有ケットの導入

今回は前回紹介した基本原理をもとにしてケットの諸性質を見ていきます。

 

【目次】

 

二つの基底ケット

前回の記事で導入した基底ケットというものは、ベクトル空間における基底ベクトルのような役割を果たしてくれておりました。この類推に基づくと、線形代数で基底ベクトルの取り替えが話題になるように、ケット空間における基底ケットの取り替えについても是非考えるべきと思われます。早速、

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という二つの基底ケットを用意します。基底ベクトルの取り替え行列に対応する演算子をUとして、この二つの基底ケットは

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という関係式で書かれることが期待されます。Uを具体的に

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としてみますと、

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となることから、これは確かに基底の取り替えを行う演算子になっています。

また、線形代数において、2つの正規直交基底間の取り替え行列がユニタリー的だったように、今出てきた演算子Uもユニタリー的であることが予想されますが、実際

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という計算から、

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がわかります。(|c‘>が任意の状態ケットで良いため)この式を用いて、

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となることがわかりますから、やはり演算子Uはユニタリー的であったことが証明されます。

 

縮退のある場合

これまでは固有ケットをその固有ケットの値によって表していました。例えば、

固有値a’を持つ固有ケット……|a‘>」

のように|…>の中身にケットの固有値を入れることで、その固有ケットを特徴づけていたのです。しかしこの作戦には重大な欠点があり、一つの固有値に複数の固有ケットが属していた場合(このような状況を、固有ケットが縮退していると言います)、それらの固有ケットを区別して記すことができません。

(縮退のイメージとしては下図のように一つの固有値に複数の固有ケットが属しているという感じでしょうか。)

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 この問題点を解決するには、’縮退している固有ケットを区別するための適当な番号’を固有ケットの右肩あたりにつけてやれば良いと思うかもしれませんが、それはあまり有意義なことではありません。というのも、前回の記事で基本原理として述べたように、我々が観測によって知ることができるのは固有値だけであり、同じ固有値を持った異なる固有ケットにそれぞれ通し番号がついていたとしても、我々にその番号による違いを知る手段は無いのです。そのような机上の空論に過ぎない方法よりも、実際に観測することができる違いによって縮退した固有ケットを区別する方法のほうが意味がありましょう。

そこで別の観測可能量B(観測可能量とは観測することができる物理量を表す演算子のことです)を取ってきてその固有値を{b^(n)}と書くことにします。もし仮に観測可能量AとBが全て共通の固有ケットを持っていれば、下図のようになるでしょう。(青線は固有ケットを表しています。)

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そしてありがたいことにも‘各々の固有ケットが属するAの固有値とBの固有値’の二つの情報によって固有ケットをユニークに指定することができたなら、このときの固有値を並べて

|a', b'>

のように表現することで先ほど述べた問題点を解決することができます。

それでもまだ固有ケットをユニークに表現できないのであればもうひとつ都合の良い観測可能量を見つけてきて(それをCとします)

|a', b', c'>

と表せば良いでしょう。一般に先ほど述べた問題点を解決するためには、同じ固有ケットを持つ観測可能量を必要なだけたくさん探してくれば良いということになります。このような特徴を持った観測可能量を同時観測可能量と呼びます。

 そこで次の関心は、「一体そのような観測可能量をどうやって探し出せば良いのだろう?」といったものになります。つまり、二つの観測可能量が同時観測可能量であるための必要十分条件を探し出したいのです。

まずは同時観測可能量であるための必要条件を見ていきます。二つの観測可能量をAとBとして、二つは共通の固有ケットを下式のように持っていたとします。

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これを用いてAB−BAという演算子を考えると、任意の固有ケット|x'>に対して、

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になりますから、

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となります。(上の赤字の[A, B]=AB-BAという演算記号を交換子と呼びます。)

つまり、交換子が0になるのです。(このように交換子についての関係式を交換関係と言います)

以上から、必要条件は[A, B]=0です。

 次にAとBが同時観測可能量になるための十分条件について見ていきます。

a', a''をAの固有値、|a'>, |a''>を順にa', a''に属す固有ケットとして、[A, B]=0を仮定すると、

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となりますので、a'≠a''であれば、<a'|B|a''> =0になることがわかります。(最後の式で0になるのは[A, B]=0を仮定しているためです。)

クロネッカーのデルタを使えば、上式は

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となります。この式を用いると、Bは

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と表せますので、(完備関係式を用いました。完備関係式について詳いことは前回の記事をご覧ください。)

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という風に変形されます。この式はAの任意の固有ケットである|a''>が実はBの固有ケットでもあることを示しています。つまり、観測可能量AとBの固有ケットは同一なのです。これはつまりAとBが同時観測可能量であることを示してますので、[A, B]=0が十分条件でもあることがわかります。以上の必要性と十分性をまとめると、

「[A, B]=0⇔AとBは同時観測可能量」

という重大な結果が得られます。よってこれから同時観測可能量を見つけたい時は、交換子を調べれば良いのです。

 

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